おとん５

こないだおとんに会ってきた。

いつもながら小田和正に似た顔をしている。

帽子まで同じようなのをしている。

意識してやっているのかと思ったがそうではなかった。

肺癌らしい。

余命１年ぐらいらしい。

抗癌剤の副作用で髪の毛が抜けていたのだった。

渡したいものがあるというので会いに行ったのだが、

渡したいものというのは、

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おとんの全財産だった。

「俺はもうあかんから、全部やる。もってけ泥棒。」

とおとんが言った。

「いらんゆうたらどう使うんや」

と聞くと、

「寄付でもするかな。」

と言った。

僕が子供の頃、

「寄付なんかする奴はあほや、あんなもん何に使われとるか分からんぞ。」

と、さんざん僕に言ってたのに！

おとんの中で何かが変わっている！

「さんざん悪い事してきたからな。せめてもの償いや。」

「それよりほんまにいらんのか？」

と言った。

もの凄い金額のお金、車（高級外車５台）、株、家４軒・・・

確かに魅力的だが、

貰わないのなら寄付すると言ってるので、

３LDKの２階建ての小さな家１軒だけ貰う事にした。

いとこの勤めていた会社が倒産して、

なかなか新しい仕事に就けず、

子供４人と奥さんといとこが２DKの小さなアパートに住んでいるので、

貸してあげようと思ったのである。

「それだけでええんか。あいかわらずやな、お前は。」

と言われたが、

今の仕事を続けていればお金に不自由する事は無いし、

急に大金を手に入れると僕は必ずいつも堕落してしまうのである。

それに悪い事をして手に入れた財産だし、

寄付すると言っているのだから、

その償いというのをおとんはすべきなのだと思った。

きれいごとかもしれないが、これでいいんだと思う。

会えたのはうれしかったが、もうすぐ逝ってしまうのかと思うと

なんだか寂しい。

当たり前か。

おとんにはすでにいろんな財産を貰っている。

英才教育を僕にして、

僕は何をやっても食うに困らないようにしてくれたのである。

それだけで十分だ。

自分の力で必ずおとんを超えるという目標を絶対に成し遂げるつもりだ！



今回、猫は出てきませんでしたが、今週キリ番カードを２枚もゲットしました♪

クロネコさんより（サイドバーに調度貼れる大きさに気を使って作ってくれたのですが拡大しました）



nanoさんより




本日のおまけ

おとん４

昨日、おとんから電話がかかってきた。

「もう退院したんやろ、そろそろ会えるんとちゃうんか」

と、言われた。

家族の誰も、病院の名前もいつ入院したかも言ってないのに、

何故知っているのだろう？

本当に不思議な人だ。

「今、ぎっくり腰で動かれへんから、会うのは無理や」

と、言った。

「渡したいもんがあるんや、さっさと治して会いにこい」

と、言われた。

「わかった、治ったら会いにいく」

と言って電話を切った。

何をくれるというのだ？

あの人のことだから、

半端じゃない、

とんでもないものをくれるのだろう。

ごっつい外車とか、

物凄い大金とか・・・

しかし、会いたい気持ちはあるけど、

そういうものだったら断ろう。

もう病気は治ったし、元の職場に

復帰さえすれば、お金には困らないし、

人の心を傷つけて得たものなどいらない。

あくまでも会うだけである。

自分の力で、人の役に立つ仕事をして、

おとんを超えてみせる！

おとん３

ちょっと頻脈がおさまってきた。
禁断症状が治まりつつあるようだ。
医師に減らせと言われる前に、
自分である程度、睡眠薬と安定剤を、
減らしてたのがよかったみたいだ。

昨日、おとんから電話がかかってきた。
久しぶりに会わないかと言われた。
僕は腰椎椎間板ヘルニアの症状が
ひどいから、手術して治ってからじゃないと、
会えないと言った。
僕はおとんに今何の仕事をしてるの、
と言うと、
前と同じ仕事と、通訳の仕事をやってる
と、言いました。
おとんは確かに、
英語、フランス語、スペイン語、
ポルトガル語、イタリア語、
の、五ヶ国語が話せる。
通訳の仕事をやっているのは、
まんざら嘘ではないだろう。
前の仕事をまだやってるというのは、
正直かなり嫌だった。
しかしまあ、この人がいなかったら、
僕は生まれてこなかっただろうし、
手術が成功して、歩けるようになったら、
一度会ってみようと思う。
何か僕に話があるそうだ。
なんだろう？

おとん２

おとんは今、
某大学の、大学教授の
女性と一緒に住んでいる。
いったいどうやってくどいたのだろう？
本当に謎だらけの人間だ。
謎といえば、
僕のおかんは、
本当に誠実な人間だ。
真面目で、人望も厚く、
多くの人に慕われている。
そんな人間が、何故に
あんなおとんと結婚したのだろう？
おかんも相当頭が良いし、
簡単に騙されるような人間ではないはずだ。
不思議でしょうがない。
それをおかんに聞いたことは無い。
そんな事、聞ける訳ない。
僕は２１歳からホストをやっていた。
正直、大儲けした。
ホストというのは、
かなり詐欺的な仕事だ。
やっぱり僕はおとんに似ているみたいだ。
自分がいやでしょうがない。

ヤーコ

二十歳の時、
僕はどうしても、
おとんの生き方が気にいらず、
おとんをぼこぼこにしばいて、
家から追い出した。
若い頃から空手をやっていて、
当時既に空手３段で、
腕力だけはおとんに負けなかった。
その日、おとんは帰って来なかった。
次の日、家にヤーコが３人来て、
僕は、組事務所につれていかれた。
で、その組の組長に、
『お前の父親は、
日本一の詐欺師や。
わしらも尊敬しとる。
親に手を上げるとは何事や』
と言われた。
僕は、
『ヤーコに説教される筋合いは無い』
と言ったら、
スリッパで頭を叩かれ、
拳銃を突きつけられた。
心底びびった。
やれ、親は大事にせなあかんだの、
親のありがたみは親が死んでから分かるだの、
誰の金でおおきしてもうたんやだの、
３時間ぐらい説教され、
『これでうまいもんでも食え』
と言われ一万円渡され、
家まで車で送ってもらい、
無事帰ってきた。
おとんは結局二度と帰って来なかった。
おとんから電話がかかってきた。
『もう２０歳なんやから、
自分で稼いで飯を食え』
と言われた。
おとんがいなくなって、
急に家が貧乏になった。
おかんがパートで働くようになり、
僕も働かざるを得なくなった。
複雑な心境だった。

おとん

僕のおとんは詐欺師である。
いろんな詐欺をやって、
金儲けをしている。
非常に頭が良いので、
一度も警察に捕まった事が無い。
すごい奴だと思うが、
だまされた人達のことを思うと、
いたたまれない。
同じような生き方は絶対したくないと思うのだが、
僕はおもいっきり父親似で、
年をとるごとに、
顔も考え方もどんどん似てきているのを感じる。
遺伝って怖い。
病気が治ったら、
真面目に働こうと思う。